テキスト ボックス: 吉雄　権之助　　天明5年〜天保2年（1785−1831） 長崎の大通詞吉雄（幸左衛門）耕牛の末子でオランダ商館長ヘンデレキ・ドゥーフの指導のもとに、ハルマの蘭仏辞典を用いて中山得十郎とともに文化13年（1816）に完成させた。その蘭和辞書は「ドゥーフハルマ」もしくは「長崎ハルマ」と呼ばれる。これに対し江戸の波留麻和解（はるまわげ）は寛政8年（1796）に成立したわが国最初の蘭和辞書で蘭学者稲村三伯（1759-1811）が石井恒右衛門、宇田川玄随らの協力を得て、オランダの出版業者フランソワ・ハルマ Francois Halma（1653-1722）の著わした蘭仏辞典 Woordenboek der Nederduitsche en Fransche Taale, 1708 を底本として、オランダ語の見出し語一つ一つに和訳語をあてたものである。こらは「江戸ハルマ」と呼ばれる。「波留麻和解」はその後の蘭学の発達や海外文献の翻訳の進展に、おおいに与って力があり、大きな影響を与えた文化史的意義の大きな資料である。たとえば、オランダ語の「ナトゥール」（natuur）に、もともと中国語で道教的な意味を持っていた「自然」という訳語をあてたのも、この「波留麻和解」においてであり、西洋文明と近代文明を受容してゆく過程において、日本語を大きく変え、ひいては日本人の意識を変える原動力ともなった書物ということができる。